建設業のお客様から、業務ソフトのヘルプをPDFにしてほしいという相談がありました。ヘルプはWindowsのCHM形式で、画像を残して、文字検索ができて、できれば1ファイルで。最後に「AIにも読ませたいから」という一言が付いていました。
PDF変換の依頼として受けかけましたが、話を聞いていくと欲しいのはPDFではなさそうでした。現場の人が操作に迷ったとき、分厚いヘルプの目次をたどる代わりに「見積の新規作成はどうやるの」と聞けば答えが返ってくる。それが本当の目的で、PDFはたまたま先に出てきた手段の名前でした。
そこで組んだのがSharePoint Agentを使った構成です。結論から言うと動きました。ただ、最初の試験でAgentがヘルプに書いていないことを答えてきて、そこから設定を見直すことになりました。順番としてはそちらから書きます。料金や仕様は2026年9月時点のものです。
ヘルプに書いていない一文が足されていた
発注を取り消す方法を聞いたときのことです。PDFに書かれた削除の手順は正確に返ってきました。問題はその後ろに「承認済みのデータでは削除の可否が異なる場合があります」という一文が付いていたことです。PDFのどこにもそんな記述はありません。一般的な業務システムの知識で補ったのだと思います。「その根拠はどこですか」と聞き返すと、Agentはそこが推測だったと認めました。
現場の人はこの一文を「ヘルプにそう書いてある」と読みます。しかも業務ソフトでは「取消」と「削除」が別の操作になっていることが多く、ここを混ぜられると実害が出ます。
そこでカスタムAgentの指示に次の5行を入れました。
登録された公式ヘルプに記載されている内容だけを回答してください。
一般論や推測を追加しないでください。
根拠が見つからない場合は「登録されているヘルプでは確認できません」と回答してください。
回答には参照したファイル名と見出しを示してください。
「取消」「削除」「解除」などの用語を同じ意味として扱わないでください。
指示を入れた後の再試験の結果は「確認できません」でした。
SharePoint Agentで何ができるのか
SharePoint Agentは、SharePointのサイト、ドキュメントライブラリ、フォルダー、ファイルを知識源にして質問に答える仕組みです。サイトとライブラリには既定のAgentが最初から付いていて、用途別のカスタムAgentも作れます。
権限の扱いはSharePointのものをそのまま引き継ぎます。Agentに登録した文書でも、質問した本人に閲覧権限がなければ回答には使われません。導入前に権限の棚卸しが必要なのはこの裏返しで、元の権限がゆるければAgentもゆるいままになるからです。
Copilotを全員に買うのか、という話
Microsoft 365を使っている会社が「社内文書をAIで検索したい」と考えると、まず出てくるのはMicrosoft 365 Copilotです。ユーザー単位の月額で、Word、Excel、Outlook、TeamsでAIが使え、SharePointの文書にも質問できます。毎日Wordで文書を書き、Outlookをさばく人なら元は取れるでしょう。月に数回ヘルプを引くだけの現場担当者に同じ金額を払うかどうかが、経営者が止まるところです。
SharePoint Agentには従量課金(PAYG)があります。Copilotライセンスを持たないユーザーにも、使った分だけAzureに請求される形でAgentを使わせられます。手順は、Azureのサブスクリプションとリソースグループを用意し、Microsoft 365管理センターで請求ポリシーを作り、対象のセキュリティグループを割り当ててSharePoint agentsサービスに接続する、という流れです。
これで、管理・作成を担う少数はCopilotライセンス、一般利用者はPAYGだけ、という組み合わせになります。
課金の目安は、公開情報では1メッセージ0.01米ドル、標準的な1往復で12メッセージ相当です。
ひとつ注意があります。PAYGを設定してもWordやOutlookでCopilotが使えるようにはなりません。SharePoint内の情報検索に用途を絞った仕組みなので、Copilotの廉価版のつもりで入れると期待を外します。
Copilot Studioは別の軸
Microsoft 365 CopilotとSharePoint Agent PAYGの違いは「利用権と課金方法」の違いです。SharePoint AgentとCopilot Studioの違いは「Agentの作り方と機能範囲」の違いで、軸が別です。「どれが上位版か」と並べると判断を誤ります。
Copilot Studioはローコードで業務用のAgentを設計するサービスです。SharePointの文書も知識源にできますが、本領は会話の分岐と連携にあります。必要事項を順番に聞き取ってチケットを登録する、業務システムから今のデータを取ってくる、解決できなければTeamsで担当者を呼ぶ、といった処理まで組めます。その分、設計とテストが要ります。
「Copilot Studioなら会話をすべて記録できる」と言われることがありますが、公開チャネルやAgentの種類、知識源の使い方で保存範囲が変わります。Microsoft 365 Copilot Agentとして動かす場合や、SharePointを知識源にした回答には記録上の制約があるので、ログ目的で選ぶなら事前に条件を確認したほうがよいです。
| 全員にMicrosoft 365 Copilot | SharePoint Agent+PAYG | Copilot Studio | |
|---|---|---|---|
| 主な目的 | Microsoft 365全体でのAI活用 | SharePoint文書のAI検索 | 会話を伴う業務処理 |
| Word・Excel・OutlookのCopilot | 使える | 対象外 | 原則として別機能 |
| SharePoint文書への質問 | 使える | 使える | 構成により可能 |
| 一般利用者の課金 | ユーザー単位の定額 | 利用量に応じたAzure課金 | Copilot Studioの容量・PAYG等 |
| 構築の難しさ | 低い | 低い | 中〜高 |
| 会話の分岐 | 限定的 | 限定的 | 得意 |
| Power Automate・API連携 | Agent構成による | 単体では限定的 | 得意 |
| 導入までの速さ | 速い | 速い | 設計・テストが必要 |
| 利用分析 | Microsoft 365側の範囲 | 利用統計が中心 | より詳細だが構成依存 |
実際の作業
- CHMヘルプからHTMLと画像を抽出する
- 文字検索できるPDFに変換する
- 容量の関係で2ファイルに分割する
- お客様のSharePointサイトに登録する
- SharePoint AgentのPAYGを設定する
- セキュリティグループで利用者を限定する
CHMの展開には生成AIで変換ツールを作りました。出来上がったPDFは1,000ページ超で、1ファイルにまとめると150MBを超え、Agentから「このファイルには質問できない」という趣旨の表示が出たので、120Mと100Mの2つに分けました。この制限が恒久的な仕様かどうかは確認できていません。フォルダー単位で知識源にまとめられるので、分割しても使い勝手は変わりませんでした。
動作確認はCopilotライセンスを持つユーザーで行いました。「見積を新規作成する手順」「登録済みの発注を取り消す方法」「売上締処理の手順」といった質問に、該当箇所を探して出典PDFへのリンク付きで返ってきます。ライセンスのないユーザー向けには、PAYGとセキュリティグループを設定した構成を用意しています。
ほかに引っかかった二点
5分待っても返らないことがあった。 2回起きました。大容量PDFのせいか、アップロード直後で索引が終わっていなかったのか、Agent側の一時的な問題か、原因は切り分けきれていません。PoCの段階では、この揺らぎを利用者に先に伝えておいたほうがよいです。
管理者が全員の質問を見られない。 SharePoint Agentのチャット履歴を見られるのは質問した本人だけで、作成者やサイト管理者が一覧で確認する機能はありません。PoCで「どんな質問にどう答えたか」を評価するために、今回はMicrosoft FormsとSharePoint Listsを用意し、質問内容、Agentの回答、正しかったか(正しい/一部不明/誤り)、根拠が示されたか、本来欲しかった回答を利用者に登録してもらいました。手間はかかります。全質問の自動記録が必須要件ならCopilot Studioを含む別構成になりますが、前述のとおりそちらにもログの制約はあります。
向き・不向き
主目的が社内マニュアルや規程の検索で、利用が不定期で、既存のSharePoint権限をそのまま使いたい会社にはSharePoint Agent+PAYGが合います。社員がWordやExcelでも日常的にAIを使うなら定額のほうが安く済みますし、よく使う人は定額、たまにの人はPAYGという混在もできます。会話の分岐や業務システム連携、有人対応への引き継ぎまで欲しければCopilot Studioの領域です。
進め方は、対象文書と対象者を絞ってPAYGで試し、Formsで評価を集めて、Azureの請求額を見る。手応えがあれば推測を避ける指示を入れ、AgentリンクWebパーツやサイトのメインAgentとして公開して、利用ルールを作る。その先は実際の質問と請求額を見てから決めるようにしています。
おわりに
「PDFにしてAIに読ませたい」という相談は、PDF変換の作業として受けることもできます。今回は「誰が、どんな場面で、何を聞きたいのか」を先に聞いたので、PDFではなくAgentを納めることになりました。
推測を足してくることと、管理者がログを見られないことは、指示文とFormsである程度は補えました。応答の遅さだけは原因がつかめていません。それでも、全員分のCopilotを買う判断をする前に社内文書のAI検索を小さく試す入口としては、Microsoft 365をすでに使っている中小企業に手の届く選択肢だと思います。
※本記事の内容は2026年9月時点の情報に基づいています。SharePoint Agentの従量課金の単価や仕様、Copilot Studioのログ保存範囲は変更される可能性があるため、導入時は以下の公式情報をご確認ください。
- Microsoft 365で利用できる従量課金サービス
- SharePoint AgentのPAYG設定
- SharePoint Agentのアクセス管理
- SharePoint Agentに関するFAQ
- SharePointでAgentを作成する
- SharePointのAgentリンクWebパーツ
- SharePoint Agentを管理する
- Copilot Studioのセッションデータ

中小企業の「情シス不在」を支える外付けIT部|Microsoft 365・業務改善・情報セキュリティ・生成AI活用|株式会社テクノスイッチ 代表取締役|ITコーディネータ
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